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【カルトの作り方】映画『ミッドサマー』のあらすじと感想・考察

さて、今回は映画『ミッドサマー』について書いていきたいと思います。

監督は、長編デビュー作の『ヘレディタリー/継承 』が世界中で絶賛されたアリ・アスター監督です。

「太陽が沈まない村」を舞台にストーリーが展開される、新しいホラー映画です。

パンダ
パンダ
明るいのに恐ろしすぎる、アリ・アスター監督がやってくれました

映画『ミッドサマー』のあらすじ

花に囲まれた明るい祝祭の果て…

家族を失い悲しむダニーは恋人や大学の友人とスウェーデンの奥地にある村を訪れる。

その村は太陽が沈まず、美しい花々が咲き乱れた楽園のような場所だった。住人達は陽気に歌い踊る優しい人ばかり。

そして、そこでは〈90年に一度の祝祭〉が開かれていた。

最初はこの記念すべき祝祭を楽しもうとしていたが、ある儀式をきっかけに皆の心はかき乱されてしまう。

すると次第に不穏な空気が流れ始め、徐々に村の秘密が明らかになっていく。

映画『ミッドサマー』のキャスト・スタッフ

監督・脚本

監督は、アリ・アスター監督です。

『The Strange Thing About the Johnsons』、『Munchausen』、『Basically』など短編を脚本・監督し、2018年に長編初監督作品『ヘレディタリー/継承』を担当しました。

同作はサンダンス映画祭で上映された他、サターン賞新進監督賞受賞や多数の映画賞へのノミネートを果たしています。

キャスト

ダニーフローレンス・ピュー
クリスチャンジャック・レイナー
マークウィル・ポールター
ジョシュウィリアム・ジャクソン・ハーパー
ペレヴィルヘルム・ブロングレン

ダニー役は、フローレンス・ピューさんです。2014年『The Falling』でデビューし、2016年『Lady Macbeth』で数々の賞を受賞しています。また、2019年『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』では主人公の末妹エイミーを演じて、第92回アカデミー助演女優賞にノミネートされています。

映画『ミッドサマー』の感想

アリ・アスター監督がまたやってくれました!個人的には大傑作です!

まず、この映画には直接的でグロい西洋的なホラー描写が多いので、怖いというより不快感を感じることがあるでしょう。ジャパニーズ・ホラー派にとってはただ不快なだけの映画に感じると思います。

ホラー映画の特徴については、こちらの記事を参考にしてください。

【徹底解説】ホラー映画が怖い理由・仕掛けを説明しますさて、今回はホラー映画の定番パターンについて書いていきます。 ちなみに皆さんはホラー映画好きですか? 好きな人はより深く楽しめるよ...

一方で、そういった描写に免疫がある人にとっては面白い作品です。恐怖や不快感の奥にある本質を見ることが出来ます。

本作は人間の最大の特徴である「社会性」がもたらす恐怖が描かれている作品です。

人類は何かを信じることで発展を遂げてきた一方で、戦争などの様々な過ちを犯してきました。そういった人間が持つ社会性の良い面・悪い面を同時にあぶり出しているのが本作の最大の面白さだと感じます。

そもそも何が良くて悪いのかも時代や文化によって異なります。人間に社会性が備わっている以上、誰でも主人公達のように成りうるというのが最大の恐怖ポイントです。

なので、自分事として捉えられるホラーとしては最高に怖かったです。

もし本作に強烈な拒絶反応が出たなら、それは逆に他の何かを強烈に信じているということかもしれません。自分が一体何を信じて、何を拒絶して生きているのかを見つめ直すきっかけになるかもしれません。

また、そんな恐怖の背景描写が楽園のように美しいのが憎いです。美しい花々・衣装・セットなど一つ一つのカットの美しさに魅了される自分が主人公達と重なって怖くなります。

さらに、サブリミナル効果を狙っているであろう細かな伏線もストーリーとリンクして恐ろしかったです。アリ・アスター監督のこだわりが隅々まで詰まっている作品でした。

明るいホラーという新たな可能性を感じさせてくれる大傑作です。

【ネタバレ】映画『ミッドサマー』の考察

ヒトの社会性

人類が他の種と比較して最も優れている点として挙げられるのが「社会性」です。この社会性が大規模な集団行動を可能にし、正体の分からないことを信じられるようになりました。

本作に登場する村人達の儀式や慣習もその一例です。

歴史を遡っても、人類は儀式や慣習を守ることで同族だと再確認し信頼関係を保っていました。本作に登場するような儀式はかなり少なくなりましたが、未だに国家や金銭など想像の産物を見ると社会性の効力がいかに大きいか分かると思います。

しかし、社会性が戦争などの悲惨な事件を巻き起こす駆動力にもなります。また、一度信じて自己に取り入れたことを疑うのは非常に難しいことです。

本作は、そんな過程を色濃く映し出しているのではないでしょうか。

死という最大の自己犠牲を厭わない本作の村人達は異様に見えますが、彼ら自身は極めて幸福に満ちた表情をしています。そして主人公達のように少数では抗うことが出来ず、その文化を取り入れるしかないという様子が本作の本質のように感じました。

盲信がもたらすのは幸福か不幸か、また今の自分は何を盲信しているのか。そんなことを考えさせてくれました。

カルトの作り方

カルトは、人に備わっている社会性を活用することで作られます。

信者を集めるために、物凄く複雑なアプローチが必要であるとのイメージが強いかと思いますが、意外と単純なテクニックが用いられます。そして本作がその基本的なアプローチに忠実に作られていることが分かるでしょう。

1.情報の排除
2.集団の確立
3.要求の段階的強化
4.教祖のイメージ
5.信仰の説明
6.思考の剥奪
7.未来の幻

以上が、カルトを作り上げるために用いられるテクニックの例です。

1つ目の情報の排除では、社会から隔離して外の情報を排除します。人の目に付かない場所に位置取り、家族からも引き離されます。

2つ目の、集団の確立では、儀式や衣服の統制・新しい名前の授与などを用いて、強力なアイデンティティを持つ集団を作ります、また、外の集団に対する憎しみを抱かせることで、相対的にカルトへの帰属意識を高めるといったことも行われます。

3つ目の要求の段階的強化では、信者に対する要求を最初は軽くして徐々に高めていきます。こうすることで、途中で要求を断ることが難しくなり、要求の承諾を合理化するようになります。

4つ目の教祖のイメージでは、伝説や物語を絡めて信頼性と魅力を高めることを指します。崇拝、憧れの対象として強いイメージを作り上げます。

5つ目の信仰の説明では、信者に布教活動などを行わせます。信仰を外の人に説明する時には、否定的な反応が帰ってくることが予測されます。その中で、否定的な反応に対する免疫を付け、そうした反応に打ち勝つ方法を学んでいきます。

6つ目の思考の剥奪では、新しい信者が疑念を抱くことを阻止します。常に信者が隣にいる状況を作り考える余裕をなくします。また、睡眠の妨害や食事の制限で思考能力を奪います。労働や料理、洗濯、掃除なども思考する機会を奪う目的で行われます。

7つ目の未来の幻では、大きな希望や理想を作り目的意識と使命感を高めます。これによって、信者は強い動機のもとでカルトへ奉仕するようになります。

基本的には、このテクニックを活用することでカルトは作られます。また、こういったテクニックは広告をはじめ様々な場所で使用されるアプローチです。

自分が普段どのように説得されているのかを知る足がかりにもなるでしょう。

悪意ある説得に騙されないためにも、本作は非常に勉強になる作品でした。

アッテストゥパンの意味

作品中では説明されませんでしたが、アッテストゥパンとは「崖・絶壁」を意味する言葉です。またスウェーデンでは多くの絶壁に付けられている名前でもあります。

この名前は、北欧先史時代に高齢者が自分達を殺したり投げ捨てたりした儀式的な場所を指していると考えられています。伝説では、高齢者が自分自身を支えたり家庭を手助け出来なくなった時に行われていたと言われています。

熊を縫われたクリスチャン

本作では何度か熊が登場しています。

まず絵で炎に包まれた熊が描かれています。この絵から、クリスチャンへの仕打ちが過去にも行われていたことが分かります。熊は動物的な側面を強調するアイテムとして用いられたのではないでしょうか。

つまり、子孫を残す役目だけを担う人物に行われる仕打ちなのではないかと思います。

一方、本物の熊も登場しています。狭い檻に監禁され熊をコントロールしている様が見て取れます。この描写から、凶暴な熊(を縫われた人)を焼き殺すことで自らの超越性を確認していたと考えます。

村人達が敵の排除を共有することで、村に対する安心感を高める効果があると思います。

さいごに

今回は、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』について解説しました。

明るい恐怖という新感覚を味わってみてはいかがでしょうか。

気になる方はぜひ劇場でご覧ください!