さて、今回は映画『ひとよ』について書いていきます。
白石和彌監督が初めて「家族」に挑んだ作品です。
原作者は、劇団KAKUTA主宰・桑原裕子さん。2011年に自身の劇団に向けて描いた作品『ひとよ』がもとになっています。
父を殺めた母と、一夜にして人生が変わってしまった三兄妹の再会を描きます。
映画『ひとよ』のあらすじ
「あなた達は、何にでもなれる。」
稲村家の母・こはるは愛する子ども達のため、父を殺めた。
「15年後、必ず戻ってくる。」
母がそう誓った、あの一夜。それは三兄妹の人生を激変させた夜でもある。
三兄妹は世間の嫌がらせに耐え大人になった。心に負った傷を隠しながら、フリーライターとして、父として、スナックの従業員として、それぞれの道を歩んでいた。
それぞれが苦しみ続けた15年、あの一夜の願いとは違った今を過ごしながら、再会を果たした彼らはどこに辿り着くのか。
映画『ひとよ』のキャスト・スタッフ
監督
監督は、白石和彌監督です。
2013年、『凶悪』で第38回報知映画賞監督賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞・脚本賞などを受賞しました。
以降、手掛けた作品が数々の賞を受賞し注目を集めます。
主な監督作品に『彼女がその名を知らない鳥たち』や『孤狼の血』、『凪待ち』などがあります。
キャスト
稲村雄二 | 佐藤健 |
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稲村大樹 | 鈴木亮平 |
稲村園子 | 松岡茉優 |
稲村こはる | 田中裕子 |
堂下道生 | 佐々木蔵之介 |
主演は、佐藤健さんです。
また、鈴木亮平さんや松岡茉優さんの高い演技力、田中裕子さんの母としての存在感も見事でした。
その他、音尾琢真さんやMEGUMIさん、お笑いコンビ千鳥の大悟さんも出演しています。
脚本
脚本は、高橋泉さんです。
『ソラニン』や『坂道のアポロン』など人気作品を多く手掛けています。
白石監督とは、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』や『凶悪』で共同脚本を行っています。
【ネタバレ】映画『ひとよ』の感想・考察
「ただの夜ですよ」
この作品は、こはるが発したこの一言に尽きます。
日常が崩れたとしても、ただの夜。どんなに嬉しくても、ただの夜。世間から見ればなんてことない夜であり、結局は人間の意味づけの問題だと気付かされます。
母が父を殺めた夜、母は子の未来のため世間を恐れませんでした。そして子は父から離れ大いなる希望を抱いた夜でした。
しかし、雄二が「暴力に耐えていた方がマシだった。」と言っていたように、子は世間に苦しめられた過去を恨み、15年の時を経て最悪の夜へと変わってしまいます。
あの一夜に同じ願いを持っていたはずの一家がすれ違い、15年後に再会する。それは単なる母との再会ではなく、あの夜の家族の姿との再会です。
母を追いかける車にて、希望を抱く自分達と再会するシーンは象徴的で、同時に意味づけの移ろいやすさを示す印象的なシーンでした。
世間の期待より、自らの希望。
あの夜、手段は適切だったかはともかく、彼らの未来が開けたのは確かです。世間の意味付けではなく、自分の意味づけを大切にしていきたいと思います。
人間性と動物性
本作において人間性と動物性の対比が際立っています。
人間性を社会性、動物性を本能の象徴と言い換えると分かりやすいでしょうか。
人間的な料理の数々と動物性を感じさせる食事の音。睡眠や性行為の中でも社会性を感じさせる描写がありました。
人間は、人間的であり、動物的である。
社会性を持つことで大きな発展を遂げることに成功した人間ですが、そこから生まれた世間が人間を苦しめる側面を持つことが本作において重要なテーマの一つでした。
作中のユーモラスな表現は、世間に苦しめられる人間の動物性を垣間見るようなモノです。
人間性に傾きすぎている現代で、バランスを取る必要性を感じます。
さいごに
白石和彌監督と豪華な実力派俳優陣が織りなす「家族」の物語は、他の家族映画とは異なる新境地を開拓したように思います。
気になる方は、ぜひ劇場でご覧ください。